高い技術で
生殖医療を支える
胚培養士
剱持 智恵美さん
不妊治療の中で、患者から「命の源」である卵子と精子を預かり、体外受精や顕微授精などART(生殖補助医療)を行う胚培養士。本来、体の中で起こる受精や胚の成長を培養室内で再現するため、高度な技術と知識が求められる。不妊治療専門施設の高崎ARTクリニック(高崎市)の剱持智恵美さん(29)は、子どもを望む夫婦をサポートするチーム医療の一員として、研さんの日々を送る。
「命の源」と向き合う
日本では、夫婦の6組に1組が不妊治療を受けており、新生児のおよそ16人に1人が体外受精で生まれているとされる。治療の技術面を担う培養士は、顕微鏡を使い卵子に1つの精子を注入する顕微授精や、培養液内で媒精させる体外受精を行うほか、精液検査や精子の濃縮・凍結、医師が患者から採取した卵胞液の中から卵子を探す検卵、未成熟卵の体外培養など、さまざまな業務に携わる。「胚にストレスを与えないよう、迅速さが求められる一方、安全性や正確さも重要。『命の源』を扱っていることを常に意識して向き合っている」
クリニックが目指すのは、「心」と「体」に優しい生殖医療。できる限り自然な周期に合わせた体外受精を目指し、排卵誘発剤の使用も最小限に抑えており、1回の採卵で取れる卵子は1~3個。卵子は年齢とともに数が減るため、妊娠の可能性を逃さないよう、採取した卵子は成熟度にかかわらず一つ一つ大切に育てる。そのため培養士は、卵子を成熟させるための培養環境の研究にも注力している。
クリニックでは母子ともに健康な妊娠・出産に向けた体づくりである「プレコンセプションケア」も重視しており、医師や管理栄養士らによりアドバイスをしている。培養士も日々の業務や学会で得られたさまざまな情報を収集し、フィードバックする。今後は「採血結果と培養成績を関連させるなどして、目指す栄養状態や生活習慣の根拠となるデータを提供していきたい」と日々精進している。
感謝の言葉にやりがい
2014年に入職し7年目だが、生殖医療は「存在すら知らない未知の世界」だった。北里大獣医学部で学んでいた際、胚培養士に関する話を聞き、「人の生命に関係する仕事があるのか」と興味を持った。実際に現場を見学したところ、その仕事の意義や技術の素晴らしさに「言葉にできないほど」圧倒され、本格的に志した。
クリーンに保たれ、機密性の高い培養室内での仕事。患者と顔を合わせる機会はほとんどないが、カルテなどを通して関わった患者の妊娠が確認できると、やはりうれしい。患者の分娩報告アンケートに書かれた感謝の言葉や、「次もお願いしたい」という言葉にやりがいを感じている。「神様みたいな仕事と思われがちだが、あくまで頑張っている患者さまのお手伝い。より多くの笑顔につなげるため、最新の技術や情報を取り込んでいきたい」と意気込む。