特集・うつ病

認知改善し 社会復帰へ

厚生労働省によると、そううつ病を含む気分障害の国内の罹患(りかん)数は127万6000人(2017年)おり、年々増加傾向にある。明確な原因は分かっていないが、環境や社会的要因のほか、脳内の神経伝達物質の減少で引き起こされていると考えられている。今号では、うつ病の予防策や治療法をはじめ、減少する神経伝達物質のもととなる栄養やそれを含む食材、認知機能を高めるのに効果的な運動を紹介する。

お医者様

一日中気分が落ち込む、何をしても楽しめないといった抑うつ状態、気分が高揚して異常に機嫌が良かったり、イライラや怒りっぽくなったりする躁(そう)状態があります。

抑うつ状態だけがみられることを単極性うつ病(うつ病)といい、躁状態と交互に繰り返すことを双極性障害(そううつ病)と呼んでいます。躁状態のみ現れることもあります。

うつ病の診断が医師によって異なるため、一概には言えませんが、例えば仕事や受験に失敗した、失恋をしたなどの明らかな原因によって気分が落ち込んでいる場合は、抑うつ反応を起こしているのであって、一般的にはうつ病ではありません。原因が分からずに、抑うつ状態に陥っている場合が対象となります。

2週間が目安

うつ病は精神的な弱さが原因で発症するのではなく、意欲や活力につながる脳内の神経伝達物質のセロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンの減少が影響することが分かっています。身体疾患により、抑うつの精神症状が現れる病気です。

精神症状として、「気分が落ち込み、やる気が出ずに集中力が持たない」「物事に対して否定的になり、将来に望みがなくなって自分を追い込む」といった症状が現れます。2週間を目安にこうした症状が続いたら、まずは精神科を受診してください。

身体症状では、寝付けない、何度も目が覚めて眠れないといった睡眠障害のほか、食欲低下や吐き気で10キロ以上痩せたり、手のしびれや動悸(どうき)などの自律神経症状が加わったりすることもあります。過食になることはないため、その場合は摂食障害の可能性があります。

本人の自覚

コロナ禍による外出自粛で、体を動かす機会が少ない、人と会えない、趣味ができないなどストレスを発散しにくい状況は、発症しやすい環境なので注意が必要です。

若い人と高齢者のうつ病患者が増えています。日頃話し相手がいないことや、糖尿病やがんなどとの身体合併症、特に若い人は経済格差といった社会的要因が大きいと考えられています。

義務感が強い、完璧主義や几帳面(きちょうめん)な性格の人が発症しやすいと言われますが、ストレスの感じ方は千差万別で、根拠は不十分です。対処法も人それぞれのため、確立した予防法はありません。

うつ病は、少し元気がない程度で周囲が気付きにくいため、本人の自覚によるところが大きいです。一方、躁状態では、ハイテンションで人の意見を聞き入れず、現実離れした行動を取るため、家族や周囲が困って来院を促すケースが目立ちます。本人は気分が良いので治療する気にならないことが多いですが、早期治療が必要です。

偏った考え方

うつ病やそううつ病は、薬物療法が基本です。そううつ病は、躁状態と抑うつ状態、安定期によって薬の使い分けが難しいため、主治医との相談がより重要です。

うつ病では、セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質を増やす三環系抗うつ薬のほか、副作用の少ないSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)などの最新薬で治療します。

ホルモンバランスの変化により引き起こされ、出産後に現れやすい産後うつは、授乳しているため、薬物療法が難しいという問題があります。気分の落ち込みや不安などを感じたら一人で抱え込まずに人に相談したり、カウンセリングを受けたりしてください。

うつ病は考え方や捉え方が偏った認知障害の一つでもあります。就業訓練や患者同士で体験を話し合う認知行動療法を行い、社会復帰に向けた準備を進めます。うつ病は誰でもなり得る病気であり、治る病気です。専門の医療機関を受診し、しっかり治しましょう。

お医者様

うつ病の処方薬 副作用や使用法に 注意を

うつ病に用いられる代表的な薬(抗うつ薬)は、脳の神経伝達物質の量を調節する選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)の3種類です。

抗うつ薬による治療は最初は少量から開始し、症状や副作用を判断しながら徐々に量を増やしていきます。毎日欠かさず薬を飲み続けることで、薬の血中濃度が保たれ、効果が表れます。調子の良し悪しで飲んだり飲まなかったりすると、思うような効果が得られないので、飲み忘れにも注意して服薬しましょう。

また、抗うつ薬は飲んだらすぐに効果が表れるような即効性のある薬ではありません。個人差がありますが、効果の「発現には1~2週間」、「実感には1~2カ月」くらいかかります。薬を減らす場合も時間をかけてゆっくり行うことが重要なため、症状が回復していても自己判断で薬を減らしたりやめたりしないようにしましょう。

SSRI、SNRI、NaSSAは古くから用いられてきた抗うつ薬(三環系抗うつ薬や四環系抗うつ薬など)よりも副作用が少ないことが特長ですが、眠気やふらつき・転倒などには十分注意が必要です。また、飲み始めは、吐き気、おう吐、下痢などの消化器系の副作用がみられることがありますが、通常、これらの症状は2週間程度で改善します。時間がたっても副作用が気になる場合には、主治医や薬剤師に相談してみましょう。

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