旬を感じて
疲労回復
タケノコは、イネ科に属する植物の若茎(じゃっけい)で、特徴的な成分として、脳内のドーパミンやノルアドレナリンといった神経伝達物質の前駆体(生成される前の段階)となるチロシンを含む。一般的に孟宗竹(もうそうちく)、真竹、淡竹(はちく)、根曲がり竹などが食用とされ、独特な食感を持つ。孟宗竹は中国原産で、18世紀の江戸時代に日本に伝わり、全国に広がったことが知られている。
高崎健康福祉大農学部
生物生産学科准教授
熊倉 慧さん
アミノ酸
ゆでたタケノコに付着している、白い粉状のものがチロシンです。チロシンは、ベンゼン環を有する芳香族アミノ酸の一つで、柔らかいタケノコが硬い竹へと成長するための木化に必要なリグニンの合成に関与します。
われわれの生体内においてチロシンは、神経伝達物質のドーパミンやノルアドレナリンの前駆体となり、これら脳内モノアミンの生成は、うつ状態の改善に効果が期待されます。また、肌を紫外線から守るためのメラニン色素の前駆体にもなります。
その他含有量の多いアミノ酸としては、体内でのエネルギー代謝に関与し、持久力向上や疲労回復が期待されるアスパラギン酸や神経伝達物質として働くグルタミン酸、皮膚組織を構成するコラーゲンの構成アミノ酸であるプロリンなどがあります。
無機質
無機質においては、カリウムやリンが多く含まれています。カリウムは、細胞内での浸透圧維持を担うとともに細胞内外の電位差の維持に関与し、神経の興奮や筋肉の収縮機能に重要な役割を果たします。
リンは、骨や歯などの主要構成要素として重要で、生体のエネルギー代謝にも深く関わっています。さらに特徴的な無機質としては亜鉛が挙げられ、含有量は野菜類の中でも比較的多く、生体内の多くの酵素の機能に関与しています。亜鉛の欠乏症としては、味覚障害や食欲不振、免疫能の低下などをきたすことが知られています。
春に旬を迎える「タケノコ」は、食感を生かした炒め物や味を染み込ませた煮物、炊き込みご飯などさまざまな料理の場面で活躍する。脳内の神経伝達物質のもととなるチロシンなどアミノ酸を豊富に含み、疲労回復も期待できる。県内の出荷量は全国的にみて多くないが、太田市の山口喜一さん(72)は、例年2000本ほどのタケノコを出荷している。
“春の恵み”
届けたい
印刷業をする傍ら、10年ほど前からさまざまな野菜づくりを手掛ける「ホビーファーム山口」を立ち上げ、兼業農家として汗を流す日々を送っている。
タケノコ掘りに魅了されたのは15年ほど前。知人に誘われたことがきっかけだった。竹の葉で覆われた地面を足で踏みながら、土の盛り上がり(新芽)を探す宝探しの感覚のとりこになった。翌年には近くの山を借りて本格的に収穫を始めた。
丁寧に取り出す
3月下旬から4月いっぱい、90アールの敷地に自生する竹林で、代表的な孟宗竹(もうそうちく)を、山口さんら男性5人で収穫。運搬や近くの「道の駅おおた」への出荷は、長女の美保さん(48)と長男の妻の知世さん(34)、妻のしず枝さん(71)が行う。「イノシシ竹のこ」の商品名で、例年1日平均40~50本、多いときで100本出荷している(4月で販売終了)。
収穫したタケノコを手にする山口さん(前列右から2人目)ら
今年は生育が遅く、苦心したが、新鮮な“春の恵み”を届けたいという思いは変わらない。商品として出荷するためには傷付けないように掘り出す必要がある。タケノコが反る内側の根元に、竹につながる太い地下茎があり、その地下茎をスコップで押し切って周りを掘ってから丁寧に取り出す。竹は一般的に5、6年たつと、タケノコが生えなくなる。そのため、竹に育つタケノコを残すことも忘れてはならない。
喜ぶ顔が一番
「形がどっしり、穂先が黄色く、皮がみずみずしいものが良い」と選び方のポイントを上げる。採りたては生でも食べられるが、店頭に並ぶ皮付きのタケノコはアク抜きが必要だ。①皮をむかずにタケノコの上部3分の1を斜めに切り落とす②残り部分に垂直に浅く切り込みを入れる③水とぬかを混ぜた鍋に入れ、沸騰後1時間弱火でゆでる④半日置く。「皮をむいて水洗いし、真空パックしたままお湯で煮沸消毒すると半年は持つ」と強調する。お勧めの食べ方は、皮ごとアルミホイルで包んで20~30分直火焼き。かつお節と煮る、みそ炒めにも合うという。
普段は土から出ているタケノコを収穫しているが、「(土に隠れた)タケノコから足に当たってくるようにならないと」とより高い境地を目指す。知人や友人にあげることも多く、「みんなの喜ぶ顔が一番の励みになっている」と笑顔を浮かべる。
メモ
県内のタケノコの主な産地は、渋川、桐生、富岡の各森林事務所管内。林野庁によると、2019年の県内の年間出荷量は31.9トンで全国31位。福岡県、鹿児島県、熊本県、京都府の主要産地で全国出荷量の7割を占める。