統計的に眼精疲労の患者数は分かっていませんが、診療している立場から言えることは、コロナ禍で患者数が増えていることです。リモートワークによるテレビ会議などでこれまで以上にパソコン画面を注視する場面が増え、外出自粛によりテレビやスマホを見る時間が増えたことが大きな要因だと考えています。学校教育ではタブレット端末が子どもたちに配布され、幅広い年代で起こり得る状況となっています。
身体機能に影響
ものを見るときに、カメラのレンズのような役割を果たす水晶体の厚さを調節してピントを合わせています。この調節に関わる筋肉が「毛様体筋」で、遠くを見るときは緩んで水晶体を薄く、近くを見るときは緊張(収縮)して水晶体を厚くしています。
パソコンやスマホなどの画面を近くで長時間見ていると、毛様体筋が緊張し続けた状態となり、筋肉疲労を起こします。毛様体筋は意志とは無関係に働く自律神経に支配され、使い過ぎるとバランスが崩れてさまざまな身体機能に影響を及ぼす可能性があります。
目に現れる症状として、目が重い、目の奥が痛い、まぶしい、かすむ、乾く、充血する、まぶたがぴくぴくする、まばたきが多いなどがあります。そうした症状に伴い、頭痛、首や肩の凝り、イライラする、倦怠(けんたい)感、めまいやふらつき、吐き気といったさまざまな身体症状が出てくることもあります。 目の異常なのか、ほかの病気が潜んでいないか、環境によるものなのか、さまざまな原因が考えられます。
ピント調節の衰えによる老眼、近視や遠視、乱視といった屈折異常がある中で、無理にものを見ようとすると、毛様体筋に負担がかかってしまいます。眼鏡やコンタクトレンズが合っておらず、正しく矯正されていないことが影響していることもあるため、定期的に視力検査を受けてください。
他疾患の可能性
レンズを換えても視力が上がらない場合は、他疾患の可能性があります。50歳を過ぎると、水晶体が白く濁る白内障や、視野が狭くなる緑内障、大きく視力が低下する加齢黄斑変性などの罹患(りかん)数が増加します。
仕事などでパソコンを使った作業で集中すると、まばたきをしなくなります。目の乾燥を引き起こすドライアイは、眼精疲労に直結しやすいです。
乾燥防ぐ習慣
目の疾患を除いて、予防法は目を使い過ぎないようにすることに尽きます。そのためには、環境を改善することが重要です。
パソコンの画面を見るときは部屋を明るくし、画面の位置は目線より下げてください。疲れを感じる時間は人それぞれですが、例えば1時間操作したら5~10分程度休憩する、意識してまばたきをして目を潤す、エアコンの風が直接当たらないようにするなど目の乾燥を防ぐ習慣を身に付けるだけで、改善することもあります。
眼鏡をかけている方にお勧めしたいのが、デスクワーク用の近々レンズの眼鏡で、パソコンの画面と手元の近い距離にだけピントが合います。実際その眼鏡をかけて診療をしていますが、目がとても楽になりました。仕事、家庭、運転といった場面に応じて眼鏡を使い分けることで、目の疲れの軽減につながると思います。
シアノコバラミンというビタミンB12を含む点眼薬は、毛様体筋の働きを改善する効果があります。また、眼精疲労はドライアイと密接に関係しているため、目の表面を濡れやすくする涙液に含まれるムチンを補充する点眼薬も有効です。
食事では、レバーやウナギ、豚肉が目の疲れに良いとされ、抗酸化作用があるアントシアニンを含むブルーベリーは、毛様体筋の働きに関わり、老眼予防につながるとされています。眼精疲労は生活の質を低下させるだけでなく、目の疾患の前兆の可能性もあります。環境を改善しても苦痛な状態が続く場合は、単なる目の疲れと捉えずに一度、眼科を受診してください。