「食は生命なり」
特定保健指導は、生活習慣病の予備軍といわれるメタボリック症候群を防ぐことが目的。40歳以上を対象に、腹囲や血糖値、血圧など検査値に基づき、食生活や運動習慣による改善策を探っていく。指導と聞いて堅苦しい内容をイメージし、「怒られるのでは」と構える人もいるが、「その人がどうしたいのか、そのために何をすればいいのかを一緒に考えていく時間」と話す。
「健康づくりはオーダーメードの時代」。健康に関する情報が氾濫している昨今、良かれと思ってやったことが、その人には合っていない場合もある。さらに食や運動の優先順位は、ライフスタイルや仕事、家族構成によっても違う。行動変容を強いるのではなく、コミュニケーションを取りながら、それぞれの「やる気スイッチ」を見つけていく。同じく協会けんぽに在籍する保健師と、情報交換しながらより良い方法を探っている。
高校生の頃、栄養士の母親から糖尿病患者の食事指導後の検査値が変化したエピソードを聞いた。「毎日の食事で病気が改善するのか」と驚き、栄養学に興味を持った。母校・女子栄養大の創立者、香川綾の「食は生命なり」という言葉を、仕事に取り組む上での指針としている。「人々の生活を支える健康の維持、増進を図る基本が食、という意味。指導とは矛盾するかもしれないけれど、食事を嫌々食べる『えさ』のように扱ってほしくないという気持ちもある」。シンプルな味付けで新鮮な野菜のうまみを楽しむことができれば、自然と減塩につながる。「食事で気持ちが和んだり、癒やされたりすることもある。その感覚を大切にしてほしい」と願う。
体験談は財産
やりがいを感じるのは、対象者に変化が見られたとき。「運動は無理」「禁煙できない」とかたくなだった人が好転した時は、必ず背景を聞くようにしている。教科書に載っていない体験談は、貴重な財産だ。「人は年齢に関係なく行動を変えることができる。その過程をサポートしながら一緒に悩み、喜びを共有できるこの仕事が大好き」
群馬支部の加入者は、車社会による運動不足のためか、血圧や血糖値が高い傾向にあるという。放置すると慢性腎臓病につながる恐れがあるので、若年期からの健康づくりが大切という。「若い人は体のケアを後回しにしがちだが、人間の体は部品交換できない。体からの声に耳を傾けるためにも、健康診断を必ず受けて」と呼び掛ける。