特集・脂質異常症/食と栄養「ギンヒカリ」

魚介類で 脂質異常を改善

今月の食材
県が選抜育種して生み出した高級ニジマス「ギンヒカリ」

ニジマスはサケ・マス類の一種で、人工孵(ふ)化が容易なため、国内で広く養殖され、「トラウトサーモン」といった名称で流通する。本県では、3年で成熟するニジマスの固定化に成功した「ギンヒカリ」が生産されている。ニジマスは、脂質異常症などの改善が期待できる不飽和脂肪酸を豊富に含んでいる。

東洋大食環境科学部 健康栄養学科教授
高橋 東生さん

栄養成分

脂肪酸は、脂質の主要な構成成分です。エネルギー源となるほか、その種類によってさまざまな生理作用を有する重要な栄養成分です。脂肪酸はその構造から、二重結合を持たない「飽和脂肪酸」、二重結合が一つの「一価不飽和脂肪酸」、二つ以上の「多価不飽和脂肪酸」に分けられます。さらに、多価不飽和脂肪酸には、二重結合の位置によって「n-3系多価不飽和脂肪酸」や「n-6系多価不飽和脂肪酸」があります。これらの脂肪酸は食品にそれぞれ異なった割合で含まれています。

100gあたりの栄養成分値

不飽和脂肪酸

最近の研究では、摂取するn-3系多価不飽和脂肪酸とn-6系多価不飽和脂肪酸の比率が重要とも考えられており、主に植物油や魚に多く含まれています。

n-3系にはα-リノレン酸、DHA(ドコサヘキサエン酸)、IPA(イコサペンタエン酸)があります。IPAはエイコサペンタエン酸(EPA)とも呼ばれています。また、n-6系のリノール酸は、体内でアラキドン酸を作り出し、イコサノイドという生理活性物質にもなります。

これらは動脈硬化や血栓を防ぎ、血圧を下げるほか、脂質異常症の要因となるLDL(悪玉)コレステロールを減らすなど、さまざまな作用を持っています。魚介類を食べている地域では、動脈硬化により発症しやすい脳梗塞や心筋梗塞などの血栓症の患者が少ないことが知られています。

ただし、熱や光、空気で酸化しやすいため、高温で調理すると大気中の酸素と反応し、過酸化脂質となって多価不飽和脂肪酸の働きが弱くなります。食物として取る場合、揚げ物や炒め物よりもドレッシングをかけて食べるなど、火を通さない方法が摂取しやすい栄養成分となっています。

今月の食材

県水産試験場川場養魚センター(当時・川場養魚場)が、1987年から15年かけ、3年で成熟するニジマスの系統を選抜育種し、固定化に成功した高級魚の「ギンヒカリ」。大型で体色は銀白色を帯び、身は赤色であっさりとした滑らかな食感は絶品だ。一般のニジマスより低脂肪でヘルシーな食材といえる。渋川市の斉藤養魚場では、夏場の本格的な出荷に向け、手塩にかけて育てている。

絶品高級魚を 広めたい

一般のニジマスは2年で成熟して卵や精巣に栄養が奪われ、肉質が低下する。小ぶりで塩焼きが定番だったが、3年成熟のギンヒカリは体長50センチ程度、重さ2~3キロにまで大きくなり、刺身や切り身を使った幅広い料理の提供が可能となった。

同センターに2年で成熟しないニジマスがいた。食べてみると格段に味が良かったため、開発に着手。他県のブランド魚の多くは染色体操作しているが、本県は系統選抜を地道に進め、2002年にギンヒカリを商標登録した。同センターが採卵、受精作業を行い、卵や稚魚を養殖業者に出荷している。

品質重視の給餌管理

斉藤養魚場は、アユやヤマメなど養殖業を始めて50年。開発当初からギンヒカリの養殖を手掛ける斉藤富保(とみお)さん(62)は、妻の明美さん(57)と長女の飯塚優香さん(33)の親子3人で湧き水を利用して育てている。

丹精してギンヒカリを育てる斉藤さん(中央)と明美さん(右)、優香さん

斉藤さんが副組合長を務める県養鱒(ようそん)漁業協同組合のギンヒカリ部会では、品質を重視し、重さ1キロ以上、身を美しい赤色に仕上げるために出荷前3カ月以上はアスタキサンチンを多く含む餌をやり、滑らかな舌触りで身を脂っぽくしないため、餌に油脂を加えないといった取り決めをしている。

デリケートな魚

卵から稚魚まで半分に減り、その稚魚が3年育つのは7割。「デリケートな魚でストレスに弱い。優しく扱わないとすぐ死んでしまう」と斉藤さんは細心の注意を払う。

水温は13~15度を保ち、1日2、3回餌をやり、週に何度も池を掃除して環境を整える。大変なのが雷雨や台風のとき。泥水が入らないようにし、ポンプで水を循環させ、機械で酸素を加える。「以前はなかった局所的な大雨や土砂の流出が増えている」と気が気ではない。

年間3~4トン生産する中、最盛期は一番大きく育つ夏。形が悪いと商品にならないため、1匹ずつ手に取り大きさや姿形を見極めて出荷する。「見た目が美しいギンヒカリができるとうれしい」と顔をほころばす。

一般客にも販売しているが、コロナ禍で旅館や飲食店への出荷は厳しい状況が続く。「県と連携して希少な魚の存在を広め、多くの人に丹精して育てた高級食材を味わってほしい」と力を込める。

メモ
ギンヒカリを生産するのは東吾妻町や川場村、嬬恋村などの12軒。2020年の年間生産量は過去最多の33.7トン。昨年は国の支援事業を受け、県内の旅館や飲食店のほか、延べ362の小中学校などの給食にギンヒカリを提供した。
*制作協力/群馬県農政部
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