「物作り」が好き
小学生の頃、病気治療のために手術と入院を繰り返していて、身近な医療職に憧れた。人気アニメのロボットや自動車のプラモデル作りが好きで、高校時代に医療分野で細かい物作りのできる「歯科技工士」について知り、埼玉県の専門学校に進学。卒業後、歯科技工所のカナイナビデントに入社して18年になる。
歯科技工士は歯科医師や歯科衛生士など歯科医療の専門職の一員だが、患者に直接会う機会はまれな「縁の下の力持ち」。歯科医師の指示に基づいて歯型から模型を作り、義歯や歯のかぶせ物といった歯科補綴物や矯正装置などの製作や調整、修理、加工を行う。「歯の形や大きさ、色、並び方、顎の角度や動き方は一人一人全く違う。上下でも異なり、歯には食物を噛(か)み砕くための細かい溝もある。髪の毛1本入っただけで違和感を覚える口腔内に、できるだけ調和する技工物を提供できるように」根気強く繊細な工程に取り組む毎日だ。
機能回復の一助に
歯は食べ物を噛み切り、砕いて飲み込み、栄養を体の中に取り入れる玄関口の役割を担う。自然な噛み合わせは食事を味わうだけでなく、正しい発声・発音による会話や姿勢の維持・歩行にも関わっている。「歯を失うことで損なわれた身体機能や歯並びなどの審美的な回復の役割を担う歯科技工物を作ることは、患者さんの生活の質を向上する一助になれる」と胸を張る。
知的障害児通所施設を創設した曻地(しょうち)三郎さんに関する文献を読んだことがある。70代で総義歯になったが、ひと口30回噛むことを実践して107歳まで教育者として活躍した。「曻地先生のようにしっかりと治療を受け、最適な歯科技工物を着けて口から食べることが、健康増進につながる」と痛感した。
歯科技工士界も設計から加工までできるCADやCAM、3Dプリンターなど最先端のデジタル技術が導入され、新素材も開発されている。機械は短時間で正確な補綴物を大量に作れるが、十人十色の口腔内に合わせられるように「先輩方の職人的な経験や知識、熟練の技を学びながら、デジタル技術に生かせるように今後も研修し続けたい」と意欲的だ。「今の子どもたちはユーチューブを見て手軽に材料を買い、いろんな物を作る。物作りが好きな若い人たちに、患者さんの健やかな生活を手助けできる歯科技工士に関心を持ち、選んでもらえるよう、働く環境の整備にも知恵を絞りたい」