本来排出すべき便が、十分量かつ快適に出せない状態が一定期間持続し、腹痛や下腹部の不快感など身体的苦痛や社会的支障をきたして治療が必要なことを慢性便秘症といいます。排便の回数だけでなく、すっきりせず残便感がある状態も治療対象です。
2016年度の国民生活基礎調査によると、男性は人口の2.5%、女性は4.6%が慢性便秘症の治療をしているとされ、50歳未満では圧倒的に女性が多くなっています。
近年発表された海外の論文によると、4日に1回の排便しかない人は、1日1回以上排便をする人より、狭心症や心筋梗塞での死亡リスクが1.45倍高く、脳卒中は2.19倍高いとされ、便秘が生命予後に関与している可能性も示唆されています。
「我慢」で伸びる直腸
食事をしたものは胃で消化され、小腸、結腸で水分を吸収し、便となって直腸にたまると脳に伝達され、肛門括約筋を緩めて自分の力で排便します。
女性は10代から便秘になる人が急に増えます。人前や外出先でトイレに行くのが恥ずかしいなどの「我慢」が原因と考えられています。出産すると骨盤の筋肉が広がり、排便の力に影響が出るともいわれています。
我慢を繰り返すと、便をためる直腸がゴム風船のように伸びきってしまい、ある程度たまっても便意を感じなくなり、週に1回しか排便しないといった状態に陥ります。長年便秘が続くと、直腸をもとに戻す治療に時間がかかります。
睡眠や朝食が影響
便が出ないことに慣れてしまった習慣性便秘の人がほとんどです。我慢以外の原因として、①睡眠不足②朝食を取らない③運動不足④骨盤の筋力の低下-が挙げられます。十分な睡眠を取ることで夜に活動する腸管が活発に動き、朝食を取ることで胃や腸が刺激され、便の排出が促されます。適度な運動で、腸管の血流も良くなります。
排便機能が悪くなることは、老化現象の一つです。加齢とともに男性も骨盤の筋力が落ちて女性と同程度にまで便秘の人が増えます。
糖尿病や腎不全、甲状腺機能低下症やパーキンソン病、うつ病などの病気が原因のこともあります。中には大腸がんによって便が通らないこともあり、注意が必要です。精神科の薬や市販薬のせき止めの成分によって便通が悪くなることもあります。
生活習慣の改善のほか、治療は内服薬と浣腸(かんちょう)などの外用薬を用います。特に内服薬は、効果的な新薬が数多く出ており、腸管機能の改善だけでなく、残便感も解消できます。漢方との組み合わせも有効です。
悪循環を断ち切る
子どもは便秘になりやすい。まず離乳食開始後の生後6カ月から1歳頃までで、食事が母乳やミルクから固形物に代わると、便が硬くなり自分の力で出し切れずに肛門が切れ、痛いと感じて我慢してしまいます。次に訪れるのが、トイレトレーニングをする2~3歳。おむつから座って排便する環境の変化で出にくくなることがあります。
朝の時間が慌ただしくなる小学校入学前後も多く、幼児期に弟や妹ができると、ストレスを感じて便秘になることもあります。便秘なのに硬くなった便の脇から無自覚に下痢が出る症状もあり、パンツ汚れが目立つ場合は注意してください。
浣腸や下剤が癖になると思う親は多くいますが、「便秘が癖になる」のです。数日出ないと便が硬くなり、踏ん張ると肛門が切れて痛い。我慢すると便意を感じにくくなり、硬い便がたまる。この悪循環を断ち切るには、浣腸や下剤が欠かせません。子どもの便秘はほぼ治ります。排便が週3回未満の子どもは、治療を受けた方が良いと考えています。
小学校高学年から高校生には、精神的ストレスで午前中に便秘と下痢を繰り返す過敏性腸症候群を発症する子どももいます。
週3回以上を目安に、子どもの頃から排便習慣を確立することが最大の予防策です。便秘だと感じたら我慢せずに受診しましょう。