冠動脈の血流が悪くなると、心筋に必要な酸素や栄養が足りなくなります。そうした状態を狭心症といい、冠動脈が閉塞して心筋が壊死(えし)する心筋梗塞とともに、虚血性心疾患と呼ばれています。
動脈硬化や喫煙
狭心症は、大きく「労作性狭心症」と「安静時狭心症」の2種類に分類されます。
多く発症するのは、労作性狭心症です。動脈硬化によって冠動脈の血流が悪くなっているところに、階段を上ったり重い物を持ったりして体を動かすことで、十分な血液が心臓に供給されずに心臓が酸欠状態(虚血)に陥ります。雑巾で絞られるような、重く締め付けられる胸の痛みが典型的な症状です。数分から10分程度続くこともあり、安静にすると症状は楽になります。
安静時狭心症は、冠攣縮(かんれんしゅく)性狭心症ともいい、動脈硬化のない正常な血管がけいれんをして一時的に血管が狭くなることで、心臓が虚血状態となります。安静時に発症するのが特徴で、午前2~5時くらいの夜間から早朝にかけ、寝ている時間帯に胸の痛みが生じます。発症する9割が喫煙者といわれていますが、非喫煙者にもあり、副流煙や睡眠不足、ストレスも危険因子です。
胸の痛みでも、締め付けられるような重い痛みではなく、胸が針で刺されたようにチクチク痛いと感じる症状がありますが、この場合には狭心症ではないことが多いです。そうした症状のときは、心臓周囲にある肺や食道、胃や骨、神経などに原因があることも考えられます。
閉経後は注意
2種類の狭心症は発症する原因が違うため、治療法は大きく異なります。安静時狭心症は、けいれんを鎮める内服治療が中心となります。発作時に血管を拡張する、舌の下で溶かすニトログリセリンが有効です。
一方、動脈硬化が原因の労作性狭心症は、病態によって治療法を選択します。軽度の場合は、血液をさらさらにする抗血小板薬の内服治療を進めます。動脈硬化が進行していると、カテーテル(細い管)を冠動脈に直接入れて血管を広げます。傷が残らないため、患者さんの負担が少なく済みます。また、新たな血管の流れを確保する冠動脈バイパス手術を行うこともあります。
原因となる動脈硬化を引き起こす要因は、加齢のほか、高血圧や糖尿病、脂質異常症、喫煙や肥満が関わっています。食生活の変化で塩分の摂取量が減り、高血圧の人が減ったことで虚血性心疾患の罹患(りかん)数は減少に転じているものの、厚生労働省によると、72万人(2017年)が罹患しています。
男性に多いのが特徴ですが、女性は閉経後に増加します。動脈硬化を予防する働きのある女性ホルモンが急激に減少するため、特に生活習慣には注意をしてください。
高齢化に伴い、血液循環がうまくできない心不全といった心疾患の罹患数は、右上がりに増加傾向で、心不全悪化で入院する患者さんが多くなってきました。
心筋梗塞の危険も
胸の痛みの頻度が多くなったり、軽度な動きでも症状が現れたりする場合は、労作性狭心症から、心筋梗塞の危険性が高い「不安定狭心症」に移行している可能性があります。命に関わってきますので、すぐに循環器科のある医療機関を受診してください。
狭心症でも症状が乏しいケースもあり、特に基礎疾患に糖尿病があるケースでは4割が無症状ともいわれています。健康診断で行う心電図で異常が見つかる人は一握りです。また、歯や顎、胃や左肩など、心臓から離れた場所が痛む「関連痛」が起こることもあります。高血圧や糖尿病などのリスクがあって血圧や血糖のコントロールが悪い人は、より精密な心臓エコーやCT、MRIなどの画像診断の検査を受けることを検討してください。
コロナ下で体を動かす機会が減ったことで血糖値が上がり、糖尿病が悪化する人が増えています。暴飲暴食を避けて塩分を控え、自分に合った適度な運動をするなど日頃の生活習慣を見直すことが狭心症の一番の予防法です。