身近な食材で
心疾患予防
落花生は、南京豆やピーナツとも呼ばれ、南米原産、マメ科ラッカセイ属に分類される。食品成分表では豆類ではなく種実類に分類され、ナッツの中では安価で身近な食材だ。香ばしい風味を持つため、つまみとしてだけでなく、ピーナツバターとしても活用され、心疾患の予防などが期待できる不飽和脂肪酸を豊富に含んでいる。
高崎健康福祉大農学部
生物生産学科教授
松岡 寛樹さん
由来
落花生の品種は、小粒のスパニッシュおよびバレンシア、そして、大粒のバージニアに分類されます。小粒のものは油糧用、大粒品種は食用に適しています。
国内流通量の9割を輸入に頼り、国内産は1割程度です。2018年産の落花生の国内生産量1万5600トンのうち、千葉県が約83%(1万3000トン)、次いで茨城県が約10%を占め、本県は全国10位で35トンです。1955年から千葉県農業技術センターで品種改良が進み、現在、国内の主要品種は、「千葉半立(はんだち)」と「中手豊(なかてゆたか)」となっています。
栄養成分
栄養素は脂質が約50%を占め、そのうち80%が不飽和脂肪酸で、オレイン酸が最も多く含まれます。オリーブオイルにも含まれている一価の不飽和脂肪酸のオレイン酸は、不飽和脂肪酸の中で最も酸化されにくい特性があります。次いでリノール酸も多く、心疾患の予防効果が高いとされています。
ビタミン類では、ビタミンA、C、Kはほとんど含まれていませんが、抗酸化ビタミンである脂溶性のビタミンEやビタミンB群であるナイアシン、葉酸、パントテン酸などが含まれています。特にナイアシン含量は、ほかの豆類や種実類と比べても高くなっています。ナイアシンは、必須アミノ酸であるトリプトファンから生合成されますが、栄養機能食品として、皮膚や粘膜の健康維持を助ける働きを持っています。
9月から10月にかけて収穫時期を迎える「落花生」。つまみやピーナツバターなど身近な食品として親しまれ、含まれる不飽和脂肪酸には、狭心症といった心臓病の原因となる動脈硬化を抑える効果が期待される。県内随一の出荷量を誇る前橋市の「ミツミファーム」では、本格的な収穫作業が始まっている。
本場に負けない
味わい
ミツミファーム社長の小林豊治さん(74)は、1988年に運送会社「ミツミ」を起業。2009年に同社の社長職を長男の正和さん(49)に譲り、14年にミツミファームを設立し、農業に汗を流す日々を送る。
家庭菜園の趣味が高じ、前橋市オリジナル芋焼酎に使うサツマイモを栽培していたことから、同市の依頼で、13年前から落花生栽培を本格的に開始。現在の栽培面積は約2ヘクタール、年間出荷量は4.5トンに及ぶ。
千葉でノウハウ学ぶ
自宅で食べる分の落花生を育てていたが、大量栽培となると話は違う。ノウハウを学ぶため、本場、千葉県八街市の農家に毎年足を運んだ。「最初は畑に案内すらしてもらえなかったが、通い詰めてようやく教えてもらえた」。熱意が地元農家の心を動かし、土づくりや種のまき方、抜き取り方法や使用する機械などの知識を吸収していった。
5月下旬に種をまき、約1カ月後に花が咲く。花が落ちるとその茎(子房柄(しぼうへい))が地中に伸び、土の中でマメが育つ。開花から80~85日後が収穫の目安だ。1本1本手で抜き取る大変な作業だったが、今年から専用トラクターを導入。その場で10日間乾かし、専用機械で茎から実をもぎ、水で洗う。4、5日乾かし、形や大きさ、黒ずみや割れを選別し、良品は焙煎(ばいせん)、それ以外は加工品に使う。
「一石三鳥」の栽培
普段管理するのが小林さんを含め3人程度と少人数なため、独自に効率的な育て方をしている。土を覆う農業用マルチシートの各穴を直径13センチ(通常5センチ)と大きく開けて種をまく。一般的にマルチが、地中に伸びる茎の邪魔をするため開花始めに取り除くが、穴径が大きいため張ったままに。「マルチを外す手間もなく、草が生えずに管理しやすい。マルチが余分な茎をはじき、質が保てる17~20個が自動的に収穫できる」と「一石三鳥」の栽培方法を考案した。
焙煎用に甘味の良い「千葉半立(はんだち)」、粒が大きく加工向きの「中手豊(なかてゆたか)」、ゆでるのにも適した「おおまさり」と、品種の特長を生かした商品化を進める。開発に1年以上掛けたピーナツバターは、15年に同市のブランド「赤城の恵」に認証された。家族連れや小学生に収穫体験会も開く。「味わいは千葉県産に負けない。新たな品種や加工品にも挑戦したい」と向上心は尽きない。
メモ
農林水産省の調査によると、2020年産の落花生の全国収穫量は1万3200トン、1位の千葉県が1万1000トンで8割以上を占める。家庭でも栽培でき、連作を避けて市販の肥料を加え、5月下旬に、種(生のマメ)を横にして深さ約2センチにまくのがポイント。