異業種に転身
看護師としてのキャリアの多くを、三次救急医療の最前線で積んできた。群馬大医学部附属病院では救急外来などを担当、太田記念病院では救命救急センターの立ち上げから関わり、最後の4年間はER(救急外来)の師長も務めている。
管理職として現場や消防とやりとりする中で、救急車の適正利用を意識するようになった。「車がないから」とタクシー代わりに呼ぶ“コンビニ利用”が問題になる一方、老老介護が増え、寝たきりの人を病院に連れて行くために呼ばざるを得ないケースもある。いずれにしても、本当に必要としている人が救急車を待つ状況に陥ってしまう。
さらに、転院搬送の車待ちのために救急病床が埋まったり、点滴や酸素吸入が必要な患者の搬送に医師が同乗して不在となったりするなど、院内業務の停滞も引き起こす。もどかしい思いを抱いていた時に、たまたまつけていたテレビ番組で民間救急サービスの存在を知った。「私がこれに乗れば、改善できるのでは」
救急とはいえ異業種であり、さらに転職に厳しい年齢だったが、「待っていても誰かがやってくれるわけではない」。周囲からは「師長までやったのに」と引き止められたが、「群馬の救急車の適正利用のため、民間救急を広めたい」と訴え、最終的に「頑張って」と送り出された。
思いに寄り添う
「目の前の患者が何を必要としているかを考えながら看護するのが一番性に合っている」という周東さんにとって、民間救急の仕事は意義深かった。コロナ下で病院内の面会が制限される中、転院搬送の車中は貴重な交流の場となる。「温かいタオルを手渡し、患者の手を拭いてもらうだけでも、お互いの心が温まる。家族の『何かしてあげたい』という気持ちに寄り添える」
転職してすぐ、車内での洗髪サービスを思い立った。ドライシャンプーを温かいタオルで拭き取るだけでさっぱりする。実際、利用者は喜んでくれた。「久々の現場ということもあり、毎日勉強だけど、知識がないからこそ突拍子もない自由な提案ができる」と笑う。
同社は新型コロナウイルス感染者の搬送にも携わり、昨年から県内外で9千人以上の感染者や帰国者らを運んだ。さらに人工呼吸器を導入するなど、民間救急の普及へ力を入れる。「サービスは有料だが、行政による補助が整備されれば、使いやすくなる。そのためには、まず存在を知ってもらうこと」と意気込む。