特集・胃潰瘍

進歩する治療で 改善へ

胃内部を覆う胃粘膜が傷つき発症する「胃潰瘍」。厚生労働省によると、国内の推定患者数は11万4100人(1993年)をピークに、2万100人(2017年)と大幅に減少している。衛生環境の向上や治療の進歩で劇的に改善している一方、重症化すると命に関わることもあり、早期発見、早期治療が重要だ。胃潰瘍の原因や予防策をはじめ、予防効果が期待される栄養やそれを含む食材、効果的な運動方法を紹介する。

お医者様

胃潰瘍は、食べ物を消化するために分泌される、強い酸性の胃酸などの胃粘膜を攻撃する因子と、胃粘膜を守る粘液などの防御因子のバランスが崩れ、胃粘膜が傷害を受ける病気です。

傷の程度によって、胃粘膜がただれる胃炎、傷が胃粘膜内にできるびらん、胃粘膜の下の組織まで深く傷ついた状態を胃潰瘍といいます。胃潰瘍が進むと、胃に穴が空くこと(穿孔(せんこう))もあります。

最も多いピロリ菌

胃潰瘍になる主な原因は、①ピロリ菌感染②鎮痛薬の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の副作用③脳梗塞や心筋梗塞などの再発予防で処方する抗血栓薬である低用量アスピリン(LDA)の副作用―が挙げられます。

40歳以上で発症しやすくなり、男女差はほとんどなく、遺伝もしません。最も多い原因となるピロリ菌は、胃酸を中和する酵素を持っており、一度感染すると除菌治療をしない限り胃の中にい続け、胃粘膜にダメージを与えます。多くは5歳以下で感染しますが、衛生環境の向上により、ピロリ菌の感染は大幅に減り、胃潰瘍の罹患(りかん)数は年々減少しています。

一方、高齢化に伴い、NSAIDsやLDAを処方する基礎疾患を持つ患者さんが増えているため、副作用による発症は増加傾向です。

一部ですが、強いストレスも原因になるとされています。また、コーヒーやアルコール、辛さのある刺激の強い飲食物、喫煙はリスクを高めます。

食後胃痛や黒い便

初期症状で多いのは、食後にみぞおちの痛みを訴えることです。腹部膨満感や悪心・嘔吐(おうと)、食欲不振なども頻度が高い症状です。

胃潰瘍から出血していると、黒い便が出ることもあり、さらに重症化すると吐血や下血を起こしたり、穿孔して腹膜炎を引き起こしたりすることもあります。緊急の内視鏡的止血術や外科的手術が必要になり、命に関わる危険性もあります。

早期発見するためには、食後の胃痛を自覚したり、便の色が黒くなったりしたら、かかりつけ医に相談し、早めに専門の消化器内科を受診して胃カメラの検査を受けてください。

1週間服薬で除菌

予防するためには、ピロリ菌に感染しているかを調べることが重要です。血液検査や内視鏡検査、尿素呼気試験法などで分かります。胃潰瘍を発症していなくても、ピロリ菌による慢性胃炎が確認されれば、二次除菌まで保険適用で行うことができます。ピロリ菌は胃がんの発症リスクもあり、1週間の服薬で多くの方は除菌できるので、検査で陽性だった場合は、速やかに行ってください。

治療薬としては、プロトポンプ阻害薬(PPI)やボノプラザンといった強力な胃酸分泌抑制薬が開発されています。副作用の可能性があるNSAIDsやLDAを服用する患者さんに対して、あらかじめPPIなどを合わせて服用する予防投与も普及してきています。

NSAIDsの副作用によって胃潰瘍を発症した場合、可能な限りNSAIDsの服薬をやめますが、LDAの副作用では、脳梗塞や心筋梗塞が悪化しないよう、LDAの服薬をやめずにPPIやボノプラザンによる治療を行うことが推奨されています。

胃潰瘍の治療は、目覚ましい進歩を遂げています。少しでも違和感を覚えたら、検査や治療を行い、改善に努めてください。

お医者様

胃潰瘍の治療薬 副作用や使用法に 注意を

胃潰瘍の治療薬には主に二つのタイプがあります。一つ目は攻撃因子となる胃酸の分泌を抑える薬で、これにはエソメプラゾールやランソプラゾール、ボノプラザンなどのプロトンポンプ阻害薬(PPI)と、ファモチジンに代表されるヒスタミンH2受容体阻害薬があります。通常、1日1回または1日2回の内服で治療が行われます。

二つ目は胃の血流や粘液を増強して治療する薬で、防御因子増強薬とも呼ばれます。代表的な薬として、レバミピドやスクラルファートなどが挙げられ、通常、1日3回内服し、症状の改善を目指します。

ピロリ菌が原因で胃潰瘍を発症した場合は、PPIに加えて、ピロリ菌を除菌する目的でアモキシシリンとクラリスロマイシンという2種類の抗生物質を組み合わせた3剤による除菌治療(一次治療)が行われます。一次治療で除菌できなかった場合は、PPIとアモキシシリンとメトロニダゾール(抗生物質)の3剤で二次治療が行われます。抗生物質を2種類使用するため、副作用として下痢・軟便が現れることがありますが、3剤併用療法による除菌では、1日2回の内服を7日間継続することが重要です。

胃潰瘍の治療薬では頻度は多くないものの、息切れや発熱、青あざができやすいなど血液成分の減少、皮膚や粘膜がただれるといった副作用が報告されています。また、胃酸分泌抑制薬と防御因子増強薬の中には、併用している薬の吸収に影響を与える場合があります。症状が現れた場合や、飲み合わせが不明な場合は主治医または薬剤師へ相談してください。

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