妊娠の条件として、卵巣で発育した1個の卵子が排卵し、卵管の中に取り込まれ、子宮腔内を通って卵管を遡上(そじょう)してきた精子と出合って受精卵ができることから始まります。受精卵が分割した胚が子宮に運ばれ、子宮内膜に着床して妊娠が成立します。
40歳前後は早期受診を
不妊治療を始める時期は年齢によっても異なります。40歳前後の方は、妊娠率が下がり、流産率が上がるため、半年を目安に妊娠しなければ早期受診をお勧めします。
不妊症の原因は男女にあります。女性では、卵子・胚の質、子宮内膜症やクラミジア感染で発生する卵管の詰まりや癒着、月経不順や排卵しにくい多嚢胞(たのうほう)性卵巣、着床する子宮内膜の炎症などが挙げられます。
男性の主な原因は、精子の数や運動性が極端に少ないことです。精子の数が減少する原因の60%は原因不明。原因が分かっている精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)(30%)は、精巣静脈にこぶができ、血液が精巣に逆流して精巣の温度が上昇し、精子形成に悪影響を及ぼします。ほかには染色体異常(2%)があります。
男女ともに太り過ぎや痩せ過ぎはよくありません。運動や睡眠不足、ストレス、喫煙、酒やコーヒーの過剰摂取といった生活習慣も関わるとされています。
妊娠率高い凍結胚移植
不妊治療は大きく二つ。タイミング指導や排卵に合わせて精子を子宮腔内に注入する人工授精の「一般不妊治療」と、体外受精や顕微授精、凍結受精卵を用いた高度な「生殖補助医療(ART)」。1978年に英国で初めて体外受精による子どもが誕生しました。
体外受精は、採取した卵子と精子を受精させて子宮腔内に移植します。採卵方法は2種類。自然に育った卵子を一つだけ取り出す「自然周期採卵」と、排卵誘発剤で多くの卵子を採取する「調節卵巣刺激」です。
後者の方法は、複数の受精卵を凍結保存できることもあり、1回の採卵で何度も移植して2~3人子どもを生む方もいます。凍結受精卵は着床前の状態まで培養するため妊娠率が高く、日本ではARTで出生した子どもの約9割が凍結胚移植です。一方、卵巣刺激での採卵は、腹水や卵巣が腫れる卵巣過剰刺激症候群を発症することがあります。治療法は確立され、胚移植しなければ、次の月経後に治りますが、対応できる専門医療機関で実施してください。
精子の数や運動性が極端に少ない場合に行う顕微授精は、卵子に1個の精子を直接注入し、受精卵をつくり移植する方法です。
流産を繰り返す方や何度も子宮に胚移植をしても着床しない方は、事前に胚の染色体や遺伝子異常を調べ、正常な胚のみを移植する着床前診断も行われています。
がん患者の方は、抗がん剤治療で卵巣機能が廃絶する可能性があります。10~30代で将来妊娠を希望する方には、抗がん剤治療前に卵子や受精卵、卵巣組織の凍結を勧めています。乳がん患者の方は、抗がん剤治療後にホルモン療法が必要で、すぐ移植できませんが、妊娠の希望が持てます。男性も精巣の機能障害に備え、精子凍結できます。
ARTでの出生児は14.3人に1人(2019年)に上ります。データがある国の中で日本はARTの治療数が最も多い国ですが、採卵当たりの妊娠率は世界で最も低い水準です。高年齢の受診者が多いことや採卵方法などが原因と考えられていますが、凍結胚移植の妊娠率は世界トップクラスで、世界に後れを取っている訳ではありません。
妊娠力高める習慣も
日頃から妊娠力を高める生活習慣も取り入れてみてください。肉や魚、大豆製品などの高タンパク、低炭水化物の食事が妊娠率を高めると報告されています。ブロッコリーやアスパラガスに含まれる葉酸は、胎児の異常を減らすことが明らかになっています。排卵障害の原因となる太り過ぎや痩せ過ぎを避けるために、適度な運動も必要です。冷えは卵巣や子宮に影響を与えるため、身体を温めることを心掛けてください。
国は体外受精と顕微授精の特定不妊治療の費用を助成してきましたが、今年4月からARTの大部分が保険適用になる見込みです。生活を見直し、精子や卵管が正常で妊娠しない場合は、一般不妊治療から始め、妊娠できそうもないほど精子や卵管に異常がみられる場合は、ARTを始めてください。