改善に向け工夫
大学では材料工学を学び、繊維会社に就職したが、もともと介護分野に関心があったことから1年ほどで退職。その後、曽祖母が利用する同院の介護老人保健施設でボランティアを始めた。次第にリハビリに興味を持ち、作業療法士を目指して専門学校に進学。2007年度に資格を取得後、同院の介護老人保健施設・急性期・慢性期病棟を経て、現在は認知症病棟のリハビリを担当している。
作業療法における「作業」は、家事や仕事、趣味、休養など全ての生活行為を指し、「健康や幸せを促進するもの」と捉える。精神疾患の領域では、生活のしづらさを改善し、退院を目指すことが主な目的だ。認知症病棟では食事やトイレといった日常生活動作(ADL)の改善をはじめ、昔の経験や思い出を語り合う「回想法」の実践、手工芸や体操、レクリエーションなどを行っている。「同じ時間、同じ場所、同じメンバーで行うなど配慮している」といい、安心感を得てもらう工夫をしている。
多職種連携が鍵
患者が自分らしく過ごせるよう、改善に向けた可能性を見いだすことも重要だ。過労によりうつ病を発症した男性を担当した際は、体力作りを通して「自分のペースをつかむこと」を促す治療を実践。体力や集中力が増し、生活リズムが改善したことで仕事への意欲が湧き、勤務先との働き方の調整を経て復職に至った。「大事なのは、仕事と気持ちのゆとりのバランス。『頑張り過ぎなくていいんだよ』と伝えたい」
在宅復帰や復職した人からお礼を言われたり、生き生きとした表情を見られたりするとやりがいを感じる。「病気や症状の問題点ばかりでなく、患者のいい所や強みも見つめる。広い視野で、患者が置かれた状況を把握する必要がある」と強調する。そのためには、共に働く医師や看護師らとの多職種連携が欠かせない。県作業療法士会の精神分野グループでの情報共有、地域福祉に関する情報収集も随時行い、退院後の生活のサポートにつなげている。
コロナ禍でストレスがたまりがちな昨今、「不眠、好きな食べ物がおいしくないなど不調のサインを見逃さないで」と注意を促す。解消法として運動や動画鑑賞など複数の選択肢を持つことも大切だとし、「休息したり、運動で汗を流したりして、ストレスと上手に付き合って」と呼び掛けている。