体を支え、動かし、神経を保護する脊椎は、首の頸椎、肋骨(ろっこつ)が付く胸椎、腰の腰椎、骨盤の一部の仙椎、尾骨(尾てい骨)とつながります。ヘルニアは、臓器が本来あるべきところから外に飛び出てしまった状態で、椎間板ヘルニアのほか、脱腸(鼠径(そけい)ヘルニア)、でべそ(臍(さい)ヘルニア)などがあります。
若い世代で発症
各椎骨の間にある椎間板は、クッションの役割を果たし、背骨がしなやかに動きつつ、荷重を分散して体を支えています。椎間板の内側には水分を多く含んだゼリー状の髄核があり、外側を線維輪(コラーゲン線維の壁)が包んでいます。
椎間板ヘルニアは、線維輪が破れて髄核が飛び出し、神経を圧迫して痛みやしびれが生じます。まんじゅうに例えると、皮が破れて餡(あん)が飛び出た状態。みずみずしい餡がたくさん出るように、髄核に水分を多く含む20~40代の若い世代の発症が多いです。
よく動いて体重を支え、椎間板に負担がかかりやすく傷みやすい腰椎で、圧倒的に多く発症します。人口の1%程度が発症すると考えられており、男性の発症が多く、女性の2~3倍といわれています。
頸椎も頭を支えてよく動くので椎間板ヘルニアを生じやすく、腰椎に比べて高齢の方に多いです。胸椎は肋骨・胸骨とともに胸郭を形成して動きも大きくないので、胸椎椎間板ヘルニアは比較的まれです。
日常的に腹筋を
前かがみになると、腰椎の椎間板の内圧が上がります。寝ているときが一番低く、立っているより座っているときの方が負担が増します。日頃から前かがみで患者さんを支えることが多い医療・介護従事者、重い荷物を持ち運びする運送業者、農業従事者の方々は、腰の負担が大きい職業といえます。
負担の軽減には、片膝をつき腰の位置を下げる、机やベッドなどに膝や太ももを当てながら持ち上げる方法が、腰椎の椎間板にかかる負荷を分散させます。前かがみの作業をする際に、ベルトやコルセットを着けて腹圧を上げることも予防効果があります。日常的に腹筋を鍛えることも重要で、適度な運動を心掛けてください。
頸椎にとって長時間首を屈曲した状態で下を見続ける作業や、首の激しい動きや衝撃が大きな負担になります。手術をする医師やボクサーは注意が必要で、一般的には、長時間うつむいてスマートフォンを見続けることで、頸椎椎間板ヘルニアを発症する可能性があるともいえます。
もともと椎間板の耐久性が低いことも原因の一つになることも分かってきました。腰の反り(前方への弯(わん)曲)が小さい方は、椎間板の負荷がかかりやすく、反りが大きい方も腰椎の後方部分(椎間関節)に負担がかかりやすく、腰痛を生じやすいといえます。
若い年代が発症しやすい腰椎椎間板ヘルニアは増加傾向とはいえませんが、椎骨の変形などで脊椎の中の脊柱管が狭くなる「腰部脊柱管狭窄(きょうさく)症」を発症する中高年は多く、腰痛を合併する方も多いです。
保存的治療から
腰椎椎間板ヘルニアでは腰痛から症状が現れ、お尻や片側の脚に痛みやしびれが生じることが多いです。ひどくなると足腰の筋力が弱くなり、踏ん張りがきかない、足首の返りが悪くなることもあります。さらに排尿障害を引き起こすこともあります。
頸椎椎間板ヘルニアでは肩や腕の痛みやしびれ、胸椎椎間板ヘルニアでは知覚障害や下肢筋力低下、ふらつきが現れます。頸椎、胸椎は中枢神経の脊髄が通り、非常にまれに、重症化して頸椎で四肢まひ、胸椎で下半身まひに陥ることがあります。
痛みやしびれの症状が現れ、MRI検査で初めて各種の椎間板ヘルニアと診断されます。一般的に体を傷付けない保存的治療から始め、痛み止めや抗炎症剤で治まるのを待ちます。ひどいと背骨にカテーテル(細い管)を入れ、少量の麻酔薬を持続的に注入し、症状を和らげる方法もあります。最近はコンドリアーゼという薬剤を椎間板内に注射し、原因の髄核を溶かして神経の圧迫を弱める治療法もあります。手術では、ヘルニアの摘出や椎骨の固定術、体の負担が少ない内視鏡手術も行われています。腰の痛みや脚のしびれなどを感じたら、画像診断できる専門の医療機関を受診してください。