元気を支える ~医療・介護・福祉の現場から~

子どもと医療の 懸け橋に

不安や痛みを伴う治療や入院生活に、否定的なイメージを持つ子どもは多い。群馬大医学部附属病院(前橋市)の小児科病棟保育士・山田治美さんは、遊びを通じて子どもが医療に対し、前向きになれるよう支援するホスピタル・プレイ・スペシャリスト(HPS)。医療者には遊びの中で見えてきた子どもの本音を伝え、子どもには検査や治療の意味を理解しやすい方法で説明し、子どもと医療をつなぐ懸け橋として日々奮闘している。

ホスピタル・プレイ・スペシャリスト
山田 治美さん
ウズペキスタンの病院で子どもと触れ合う山田さん

心に寄り添う

HPSは遊び(プレイ)を通じて子どもに関わることで、心に寄り添い、治療をスムーズにする役割を担う。支援の方法として、採血や点滴の針を入れる際、絵本やおもちゃで気を引いて痛みや恐怖心を和らげる「ディストラクションセラピー」、子どもには理解しにくい病気や治療について、絵本や人形を使い、年齢、発達に合わせた方法で伝える「プレイ・プレパレーション」などがある。

「遊びって深いんです」。子どもは遊びながら成長し、発達する。遊んでいると子どもの本音は表情、言葉、行動に表れるという。ある時、「採血で一番嫌なのは、針を抜く時」と話したので、医師に「ゆっくり抜いてほしい」と伝えた。すると子どもは気持ちが整理でき、落ち着いて採血に臨むことができたという。

子どもの痛みは痛覚、経験、不安感が合わさって生じている。「何もしていないのに痛がる場合でも、その子は痛みを感じている。観察しながら気持ちを酌み取り、言葉に出して共感することで困難を乗り越える力を引き出せた時は本当にうれしい」

遊びの力を実感

病気や治療について子どもに伝えるプレイ・プレパレーションでは、自作の絵本を用意する。子どもが治療に抵抗するのは、理由がわからないから。「赤血球が少ないと疲れやすくなる」と納得すれば、輸血を受け入れる。子どもへの説明に苦心する親の支援にもつながるケアだ。医師のアドバイスを受けながら、どうすれば子どもが病気や治療についてイメージできるか試行錯誤を繰り返し、さまざまな病気の教材作りを進めている。

HPSの資格を取ったのは7年前。病棟保育士として働く中で、医療者に遊びの大切さを理論立てて説明できないもどかしさがあった。小児期に痛い思いをしたりトラウマを抱えたりすると、成長・発達に影響し、人格形成にも問題が起こる恐れがある。「治療は大切だけれど、子どもの心が置き去りにされてしまう面もある。それを埋めてくれるのが遊び」。HPS発祥の地・英国やウズベキスタンの病院での活動を通し、文化や生活習慣、言葉が違っても瞬時に楽しい時間を共有できる遊びの力を再確認したという。

「一番やりたい仕事に行き着いた」とやりがいを感じているが、現在も大学の通信課程で心理について学ぶなど向上心は尽きない。「病気の子どもの親、きょうだいも心理面で支えていきたい」と意気込む。

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